ノーム・チョムスキー「これからどうなる?選挙、経済、世界」
オバマ政権の閣僚候補が発表されるにつれ、クリントン政権で金融規制緩和とタカ派外交を推進した中心人物たちの返り咲きが明らかになり、選挙で彼を支持した人々を困惑させています。ノーム・チョムスキーが大統領選挙後はじめて公の場に姿を見せ、バラク・オバマ勝利の意義と真に民主的な変化の可能性について語った講演をお届けします。
「それでも未来は みなさん次第です」と念を押しながらも、チョムスキーは「民主主義の奇跡」ともてはやされた今回の選挙の特徴を冷静に評価していきます。
第一に、これほどの現職大統領の不人気にもかかわらず、民主党は圧勝しませんでした。それはなぜでしょう?
オバマを含め当選した議員の9割が、対立候補より多くの選挙資金を投じていました。カネの力でほぼ決まるのです。オバマ陣営の最大の大口献金者は金融業界、次に大きいのが法律事務所すなわちロビイストです。
「選挙とは国の支配権をかけた効率のよい投資である」というトーマス・ファーガソンの『投資の鉄則 政治投資理論』を引き合いに出し、献金者の業界分布を見れば今後の政策をかなり正確に予想できるとチョムスキーは言います。
もう一つの特徴は、オバマの「燃え上がらせる弁舌」の力が有権者を酔わせたことです。それはオバマ陣営のマーケティング力がマケイン陣営より勝っていたというに尽きます。政策提言そのものの優劣ではありませんでした。
オバマの当選を民主主義の奇跡と呼ぶのは、西洋世界だけに視野を限定した差別的な発想の表れだとチョムスキーは指摘します。第三世界では、もっと驚くべき民主主義が実践されているからです。西半球の最貧国ハイチやボリビアでは、民衆が自分たちの中から代表を選んで草の根運動によって当選させ、自分たちの望む政策を実現させるという、真の民主主義が実践されています。
それに比べて「オバマ軍団」と呼ばれる彼の支持者たちの役割はどうでしょう?オバマ軍団は上からの指令を待つばかりで、自分たちが政策立案するわけではありません。彼らに期待されている役割は能動的なかかわりではなく、選挙がすんだら家に帰り、後はおとなしく見ているだけの「観客」です
もちろん、国民の多くはそれがいいとは思っていません。でも彼らは一人ひとり切り離され、孤独と絶望の中で何もできないと感じ、嫌だと思うだけで終わってしまうのです。このような無力感は、なぜか「先進国」とされる国々にのみ存在するようです。
このままでは何もかわりません。それを変えるかどうかは、みなさん次第です、とチョムスキーは繰り返します。(中野)
*ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky) マサチューセッツ工科大学(MIT)言語学名誉教授。言語学者としては1950年代に生成文法の提唱で言語学に革命をもたらしたことで有名だが、60年代 にベトナム戦争に反対して政治活動に乗り出し、社会思想家、政治活動家としても合衆国の左派を代表する人物の一人となった。メディアに関してもエドワード・ハーマンとの共著『マニュファクチャリングコンセント』があり、その思想と生涯がカナダの記録映画「ノーム・チョムスキーとメディア」に 詳細に描かれている。
字幕翻訳:小椋優子/校正:桜井まり子
全体監修:中野真紀子・高田絵里