『あなたは大統領になれない』 米国民主主義の驚くべき障壁
コロラド州デンバーで民主党大会が開幕するのに合わせ、ハーパーズ誌の発行人リック・マッカーサーに新著『あなたは大統領になれない』について話を聞きました。
米国人の多くは、「よき市民は誰でもいつか統領になる可能性がある、民主主義を守るのは国民の義務だ」と教えられて育ちます。ほんとうでしょうか?リック・マッカーサーは、そんな考えを持つのはサンタクロースの実在を信じるようなものだと一蹴します。それどころか「この国には民衆からわき起こり、広く浸透した真の大衆民主主義が存在する」という国民的な妄想をあおる、きわめて有害な一般通念だと辛らつです。
そのような理想の象徴とされるオバマ次期大統領(番組放送時点では候補者)を取り上げ、彼が民主党の大統領候補にのしあがった経緯が、いかに「草の根」とは無縁なものかを具体的に説明します。大統領になるための最初の条件は2大政党のどちらかの候補者名簿に名前を載せることです。党組織のバックアップを得るためには大物の支持が必要です。オバマ候補のパトロンは民主党の大票田シカゴを牛耳る世襲政治家デイリー市長です。
2大政党が築いた政界への参入障壁で、最大のものが選挙資金です。政党への直接献金は制限されていますが、2大政党は政治活動委員会などを通じて間接的に大企業から献金をつのる方法を編み出しました。これによって莫大な資金を調達できるようになったため、現職政治家と同レベルの資金を集めることは一般の人にはもはや不可能になってしまいました。この傾向がはっきりしたのは民主党のクリントン政権がNAFTAを支持して大企業や投資家の歓心を買い、共和党に負けないほどの企業献金を集めたときでした。
ではオバマ候補の資金源はどうなのでしょうか?大企業や金融セクターからの献金もヒラリーに負けないほど集めました。ヘッジファンドや企業弁護士との付き合いが深く、自由貿易推進への信念を著書で表明するオバマの陣営は、献金団体の上位20のうち11がヒラリー陣営と同じだそうです。オバマが一般の人の小口献金を大量にあつめたのは事実ですが、2004年の予備選で膨大な小口献金を集めたハワード・ディーンは党の主流派に脅威を与え、早いうちに潰されました。オバマはここから何を学んだのでしょうか? (中野)
ジョン・R・マッカーサー(John "Rick" MacArthur) “リック”は通称。米国の老舗の総合月刊誌『ハーパーズ』の発行人であり、ハーパーズ社社長。政治分野のジャーナリストとしても評価が高く、The Selling of Free Trade: NAFTA, Washington, and the Subversion of American Democracy(『自由貿易の売り込み NAFTA、ワシントン、米国デモクラシーの破壊』)や Second Front: Censorship and Propaganda in the Gulf War(『第2の戦線 湾岸戦争における検閲とプロパガンダ』)などの著作がある。 新著は You Can’t Be President: The Outrageous Barriers to Democracy in America(『あなたは大統領になれない 米国民主主義の驚くべき障壁』)
字幕翻訳:大竹秀子 / 校正:関房江
全体監修:中野真紀子・高田絵里