カーライル・グループ 民間軍事諜報企業ブーズ・アレン・ハミルトン買収へ

2008/5/19(Mon)
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カーライル・グループは未上場企業投資を専門に行う世界でも最大級の投資ファンドです。 一方、最もなぞに満ちたファンドでもあり、数々の政治家との深い関係から「元大統領のクラブ」と呼ばれていました。同社の過去の従業員やアドバイザーには、現と前ブッシュ大統領、ジョン・メージャー前英首相、前米国務長官ジェームス・ベーカー、 前米国防長官フランク・カールーチ、前米国防長官ロナルド・ラムスフェルドなど数々の大物政治家が名を連ねていました。 近年同社の取引に厳しい目が向けられてから、軍事契約数や問題の多い政治家との関係を減らす傾向にありました。 しかしそのコースは変更されたと見え、今年5月には諜報コンサルティング企業であるブーズ・アレン・ハミルトン(以下ブーズ・アレン社)がその政府関連部門をカーライル・グループに売却すると発表しました。(その買収は事実上7月に完了しました。)

一般にはあまり知られていませんが、ブーズ・アレン社は民間の軍事諜報企業の大手であり、現在米国で進行中の「政府の諜報活動の民営化」の一端を担う企業で、米国の諜報活動において戦略的に重要な役割を負っています。特にNSA(国家安全保障局)や米軍の戦闘指揮官、またCIAなどの重要な諜報機関へのアドバイスを業務としています。 またブッシュ政権の悪名高い反テロ活動プログラムや有名な全情報認知、テロ防止データマイニング計画にも深く関わりました。そしてブーズ・アレン社もまた、諜報活動で重要な役割を果たして来た大物を沢山雇っています。 
ここで頭に入れておきたい事は、米国における全諜報活動の予算のうち85%をペンタゴン(国防総省)が管理しているという事実です。 従って「軍事諜報活動」というのは巨大な情報網と巨大な予算を指しているのです。 カーライル・グループは2003年に、キネッティック(QinetiQ)という軍事諜報分野の英企業を買収し、資本注入し、その後同社の所有株を売り5億ドルもの利益を上げました。この次に高利益が期待できる投資先として、またも軍事諜報企業の大手であるブーズ・アレンに目をつけたのでしょう。

ここで問題なのは、刑務所で囚人を尋問したり、米政府が民間人の会話を盗聴したり分析したりする、機密度が高く慎重を期すべき業務が、民間企業の「利益部門」であるという事実です。 これが「利益部門」になってしまっているのは、非常に危険であると、ゲストのティム・シャロック氏は言います。 アブグレイブ刑務所での事件のように法律違反があったとき、法的な責任が誰にあるかが明解でないからです。 アブグレイブ刑務所を委託されていたカーキ・インターナショナル社の何人かの従業員は彼らの行為により起訴され有罪となりましたが、指令系統のトップにある、ラムズフェルド国防長官 やこの施設をアブグレイブに作った人物たちは、責任を全く追及されず逃げ失せたのです。カーキ社も責任を逃れました。

ティム・シャロック氏の概算によると、米国諜報活動の全予算の70%が民間の「諜産複合体」に発注されているというこいとです。これらの企業は、ロッキード・マーティンやノースロップ・グラマンのような巨大な軍事産業から、従業員200人~300人の小さな企業までいろいろで、非常に高いレベルの機密取扱い許可を持っている会社もあります。カーキ・インターナショナル社や、もちろんブーズ・アレン社もその一つです。  この様に慎重を期すべき政府の業務の大部分が民間に発注され、それが企業の「利益部門」として投資ファンドが投資するほどの利益をあげると言うことと、責任問題が明確でないことを考えると、この問題は非常な危険性をはらんでいるように思われます。 次期政権では少しは改善されるのでしょうか?(関)

*ティム・ショロック(Tim Shorrock) 調査報道ジャーナリスト。Spies for Hire: The Secret World of Intelligence Outsourcing(『雇われるスパイ:諜報活動の密かな外注化』)の著者
http://www.ecostation.gr.jp/interview/1996/6.html

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字幕翻訳:関房江 / 校正:大竹秀子
全体監修:中野真紀子・高田絵里