『マルコムX 自伝』を問い直す マニング・マラブルの新たなマルコム像

2007/5/21(Mon)
Video No.: 
1
50分

ブラック・ムスリム運動の指導者マルコムX は20世紀アメリカで最も影響力を持った政治活動家の1人でした。無神論者でハーレムのチンピラだったマルコム・リトルは、刑務所で出会った「ネイション・オブ・イスラム」に感銘を受けました。彼は同派に入信してマルコムXと改名し、白人社会への同化ではなく分離独立をめざす、黒人民族主義運動の傑出したリーダーとなりました。当初はキング牧師に代表される非暴力主義の人種差別撤廃運動や公民権運動には批判的でしたが、メッカ巡礼などを契機に世界的な視野を獲得するに至り、1965年2月に凶弾に倒れる直前には汎アフリカ主義に基づく西半球のアフリカ系住民全体の団結と権利拡大を提唱するようになっていました。

このような思想の変化から、彼の人生は常にこれまでの自分と決別し新たな段階へと進む変転の連続であったとの見方が主流です。そのようなマルコム像を固めたのは、本人がアレックス・ヘイリーと共著で出版した『マルコムX 自伝』です。しかし歴史学者マニング・マラブルは、この見方に異を唱え、マルコムの人生には断絶よりも継続性の方が目立っており、彼の根っこには熱心なマーカス・ガーベイ信者だった両親から受けついだものがあったと指摘します。マラブル教授は、コロンビア大学アフリカン・アメリカン研究所の所長で、マルコムXの生涯と暗殺について、10年単位の長期研究プロジェクトを推進しています。上述のアレックス・ヘイリーによる有名な伝記に欠けている3つの章の謎をはじめ、従来の研究とは異なるマルコム像が語られます。

番組の中には生前のマルコムの有名な演説もいくつか収録されています。彼の圧倒的な言葉の力は必見です。(中野)

白人に制服を着せられ 戦地に送りこまれたいのなら 好きなようにするがいい 私はそこまで馬鹿じゃない 刑務所へ行く 刑務所に入れてくれ あんたらの銃は持たせるな どっちを向いて撃つか分からないからね 飛行機で爆撃しに行かなくても 敵は近くにいるのだから こんな戦争に引きずり込まれる覚えはない 我々には何の益もない 我々が独立国家を持てるなら そのとき守るべきものができる 我々が守るべき土地をよこせ     -1963年8月10日 ベトナム戦争に反対する演説より



★ DVD 2007年度 第6巻

「2008年2-3月」に収録

マニング・マラブル
コロンビア大学アフリカ系アメリカ人研究所の創始者で所長をつとめる歴史学者。マルコムXの評伝研究の第一人者で、彼の生涯を研究する長期プロジェクトを推進中。2009年には、その成果をまとめた新たな伝記を出版する予定。他にもLiving Black History: How Reimagining the African-American Past Can Remake America’s Racial Future(『黒人の歴史を生きる アフリカ系アメリカ人の過去を想像しなおすことは米国の人種問題の未来を変える』)やAutobiography Of Medgar Evers: A Hero’s Life and Legacy Revealed Through His Writings, Letters, and Speeches(『メドガー・エバーズの自伝 著作、書簡、演説でみる英雄の生涯と遺産』)など著書多数。

Credits: 

字幕翻訳:川上奈緒子 / 校正:高田絵里
全体監修:中野真紀子