「味方がないのに真実を訴えるのは、学者として途方もない勇気がいる」 ホロコースト産業を批判するフィンケルスタイン教授に圧力
政治学者ノーマン・フィンケルスタインは、イスラエルの政策に対する強烈な批判で米国では異彩をはなっています。2000年に出版した『ホロコースト産業』では、米国のユダヤ系支配層やイスラエルが、ホロコーストという民族の迫害の記憶を利用して、自分たちの利益を増進し、ユダヤ文化の伝統を損なってきたと論じ、痛快な批判を繰り広げました。第二次世界大戦中にスイスの銀行がユダヤ人の資産を着服したとして、ユダヤ系の団体が一斉に騒ぎ立て補償を求めた事件について、あれは何の根拠もないゆすりだったと暴き、アメリカの外では大ベストセラーになりました。デモクラシー・ナウ!にもしばしば登場し、イスラエル支持の論客と鋭い論争を見せていました。
しかしフィンケルスタインの呵責なき批判は大きな反発を招き、学者としてのキャリアで大きな犠牲を支払わされてきました。昨年はとうとう、助教授として6年間教鞭をとってきたデポール大学を辞職する事態となりました。テニュア(終身在職権)獲得を不当に拒まれ、大学側と数ヵ月にわたって闘争を繰り広げた末のことです。この背景には外部からの露骨な圧力が働いていました。アメリカの大学でイスラエルを批判することが事実上タブーに近くなっている現状の、犠牲になったのは明白です。
今回の番組は、フィンケルスタインがまだ騒動の最中にあったころに放送されたもので、大学側の措置がいかに不当なものであったかを示しています。ホロコーストとイスラエル政策という、フィンケルスタインの研究の2つの柱に関して、その分野では世界的に著名な2人の研究者に今回の問題について話を聞いています。オックスフォード大学国際関係論教授のアヴィ・シュライムは、アラブ=イスラエル問題の専門家です。シュライムは、フィンケルスタインを「とても印象的で、学識のある、慎重な研究者」と高く評価しています。また米国の歴史家で、ホロコースト研究の創始者として知られるラウール・ヒルバーグは、フィンケルスタインの「鋭い洞察力と分析力」を讃えています。「誰一人味方がいない中で真実を訴えることは、学者として途方もない勇気を必要とする」と言います。
「彼の名は歴史叙述の歴史に残るでしょう。最後に正しさが証明される者が勝ち残るのです。彼はその1人になるでしょう。ただし、そのために支払う代償は大きいようです」(中野)
*ラウール・ヒルバーグ(Raul Hilberg) オーストリア生まれの米国の歴史家。ホロコースト研究の第一人者。『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅(上・下)』(柏書房)によってホロコースト研究を基礎づけた。 ヒルバーグはこの番組収録からそれほど日の経っていない8月4日に亡くなりました。
*アヴィ・シュライム(Avi Shlaim) オックスフォード大学の国際関係学教授。イスラエル=アラブ紛争についての世界的権威の一人。The Iron Wall: Israel and the Arab World など、著書多数
字幕翻訳:小田原琳
全体監修:中野真紀子