ナオミ・クライン『NOでは足りない』トランプのショック政治に抵抗するために(1)ホワイトハウスのブランド化 

2017/6/13(Tue)
Video No.: 
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16分

トランプ大統領が選出されてからそろそろ1年を迎えようとしています。彼の名前を冠したホテルの高価な部屋に宿泊することで歓心が買えると「忖度」した外国政府関係者は、史上最も裕福な大統領をますます裕福にする手助けをしています。「職業政治家」に対する失望から、まさかのどんでん返しで選ばれた「実業家大統領」ですが、保険制度の改革(改悪)も遅々として進まず、イスラム諸国などからの入国制限は違憲との判決が相次ぎ、そのはらいせのように北朝鮮をいたずらに挑発するなど、少なくとも現時点では国内・国外ともに政権発足以前よりよい状況になったとは思えません。

トランプが大統領になるまでの過程は単純なものではありませんでしたが、間違いなく彼の大きな転機のひとつとなったのが、「お前はクビだ」のフレーズで知られるリアリティテレビ番組「アプレンティス」の出演でした。成功者と落伍者、鮮烈なコントラストを徹底的に際立たせることで、ある意味アメリカの現実をそのままお茶の間に映し出した番組は大きな支持を得ました。そこで支配者の役割を演じたトランプなら、大統領になってもうまくやるのかもしれない、というイメージを視聴者に刷り込むことに少なからぬ役割を果たしたことは間違いなさそうです。そしてまたそれは、とりもなおさず「トランプ・ブランド」の価値が大きく増大したことも意味しました。番組出演以降、自分では何も作り出しはしないのに、不動産からボトル水から、果ては「大学」までに「トランプ」とつければ、商売になったのですから。

こんな大統領でいいのか?新著『NOでは足りない』の著者ナオミ・クラインさんにお話をうかがい、なぜ今の「超現実的」政治状況に至ったのかを振り返りながら、いかによりよい未来を作り出せるか、へのヒントを探る動画となっています。

ナオミ・クラインさんは、徹底的に調査を行なってから執筆に取りかかるため、通常は数年ごとにしか新刊を出しません。しかし、「NOでは足りない」では例外的に数ヶ月の取材で刊行した、いわば緊急出版であると言っています。タイトルからも、トランプ政権に対抗していかなければならないという彼女の想いがどれだけ逼迫しているかが伝わってきます。

トランプが行なっているのは「政治ではなく、ブランド作りだ」とクラインさんは断じています。「アメリカ合衆国大統領」という、世界初かつ世界的なブランドを作ることだと。比較的新しいビジネスモデルであるトランプのやり方は、90年代に勃興したグローバルブランドが編み出したやり方です。いくら性能や品質のよいものを作っても移り気な消費者の心をつなぎとめておくのは難しい。ならばこの際製品は海外で徹底的に安く作り、グローバルブランドであるという「イメージ」を売りつけよう、というのがその戦略でした。

世界中にある「トランプ」不動産ですが、実はその多くが自社所有ではなく、単に「名義貸し」で名前を使わせているだけのものが多いのです。それはまさにグローバルブランドのやり方と同じで、「トランプというブランド」のビジネスモデルである、と、ナオミ・クラインさんは言います。

間違いなく、世界中のあらゆるメディアで言及されているであろう名前、トランプ。その言葉を口にするために、そのブランドの価値を高めることになる。「悪名は無名に勝る」という言葉もありますが、なんとも口惜しいことです。「NO」という意思表示ができる一番の機会は、いうまでもなく選挙でしょう。つい最近日本であった選挙では現政権への「NO」を示す機会を有権者が放棄していますが、アメリカでの次の選挙ではどんな民意が示されるのでしょうか。(仲山さくら)

ナオミ・クライン(Naomi Klein):ジャーナリスト、『インターセプト』のシニア・コレスポンデント。『ブランドなんか、いらない』、『ショック・ドクトリン──参事便乗型資本主義の招待を暴く』、『これが世界を変える──資本主義VS.気候変動』などの著者。この番組が放送された2017年6月13日に新刊No Is Not Enough: Resisting Trump's Shock Politics and Winning the World We Need(『NOでは足りない──トランプのショック政治に抵抗し我々に必要な世界を勝ち取るために』)をリリースした。

Credits: 

字幕翻訳:デモクラシー防衛同盟
千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・岩川明子
全体監修:中野真紀子