映画 『ハンナ・アーレント』 アイヒマン裁判を取材したドイツ系ユダヤ人思想家をめぐる激論を再検証

アドルフ・アイヒマンは、ゲシュタポのユダヤ人課課長として、ナチス占領下の東欧全域で数百万人のユダヤ人を絶滅収容所に移送することになる輸送システムを編成しました。アイヒマンは、ヨーロッパのナチス支配地域のユダヤ人を絶滅させる「ユダヤ人問題の最終解決」を命じる書簡の起草に力を貸しました。戦後、アイヒマンはアルゼンチンに逃亡し、偽名で暮らしていましたが、1960年5月11日にイスラエルの諜報機関モサドにより誘拐され、飛行機でイスラエルに移送、1961年4月にエルサレムで裁判にかけられました。有罪判決後、彼は1962年に絞首刑に処せられました。この裁判をレポートしていた作家の一人が、ドイツ系ユダヤ人哲学者で政治理論家、『全体主義の起源』や『人間の条件』などの著者ハンナ・アーレントでした。ニューヨーカー誌に掲載されたアーレントによるアイヒマン裁判の報告は、激しい物議をかもしました。アーレントは、アイヒマンが怪物ではなく、邪悪ではあるものの「恐ろしいまでに、じつに普通の人間」だったことに衝撃を受けたことを語っています。それ以上に問題とされたのは、ナチスが任命する「ユダヤ人評議会」(Judenrat)の第三帝国への協力を通じて、ユダヤ人自らが自分たちの絶滅に手を貸していたというアーレントの主張でした。アーレントによるアイヒマン裁判の取材については、2013年の映画『ハンナ・アーレント』で取り上げられています。映画の一部を紹介し、主演のバルバラ・スコヴァに話を聞きます。彼女はこの役でドイツのアカデミー賞にあたる「ローラ賞」で主演女優賞を受賞しました。また、監督のマルガレーテ・フォン・トロッタも番組に参加します。 彼女はドイツ映画界を代表する監督の一人で、40年間にわたるキャリアで数々の賞を受賞しています。
