TPP 新たなリーク文書で国民の健康と医療への企業支配強化が鮮明になり 米国内の反発が高まる

放送日: 
2015/6/11(木)
再生時間: 
21分

世界的規模で巻き起こる反対運動にもかかわらず、大筋合意に向け最終段階に入ったと言われる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉。厳しい守秘義務が課され、議員でさえその膨大な内容と全体像が見えないとされ、その全容はいまだ闇の中です。ウィキリークスがこじ開けた穴からのぞくしかありません。そのわずかなリーク内容が発表されるたびに、あまりの不公平な内容になぜこのような条約が締結されようとしているのかと、各方面から強い反対の声が上がっています。この協定が成立すると、参加12カ国で世界GDPの約40%を占める自由貿易圏が形成されると言われます。今回取り上げた番組では、パブリックシチズンのピーター・メイバードゥクと、ヒューマンライツウォッチのジョン・シフトンをゲストに迎え、ウィキリークスが最近公表したリーク草案、「法的・制度的事項」の透明性に関する章の付属文書を基に、TPPの医療・医薬品問題や人権問題への影響について語っていただきます。

まず、エバーグリーニング規定について、国境なき医師団のビデオを紹介し、製薬企業による市場寡占の驚くべき手法を明らかにします。医薬品の特許権の存続期間は20年ですが、それが切れそうになると、あの手この手で延長を図り、競合品の出現を防いで独占価格を維持しようとします。例えば少しの組成改変(錠剤を粉末にするなど)を加えるだけで効能は変わらないのに新薬として特許を取り、さらに20年の保護期間を確保します。またデータ独占権により臨床データの使用を禁止します。つまり先発医薬品の臨床実験データが使えなくなるため、後発医薬品(ジェネリック)も最初からデータを取る必要が生じ、先発医薬品との価格差がなくなるという手口です。

廉価なジェネリック薬品の利用を妨げ、薬価の高止まりを狙う巧妙な仕組みですが、途上国では、抗HIV薬として安価なジェネリック薬が入手できたからこそ何百万人という命が救われたのです。肝炎、結核、癌等の慢性疾患を抱える人々にとっても同様です。この規定は、再び多くの人命を危機にさらすものだと、ゲストたちは批判します。巨大製薬企業は人道を無視しても自らの利益追求を追及し、各国の薬事行政や司法権にも介入します。こうしたエバーグリーン条項に法的強制力を持たせるのがISDS条項、すなわち投資家が協定参加国の政府を相手取って国際的な仲裁機関に訴訟を起こし、協定違反による損害賠償を請求できる制度です。企業の利益が国家主権より優先するという、本末転倒の内容です。

こうした中、オバマ大統領は、長引く交渉を一気に妥結させる決め手として、議会に対し大統領に貿易交渉を一括して委ねるファストトラックすなわち貿易促進権限(TPA)を求めましたが、草案リークによる内容への批判や秘密主義への不信感などから議員の間にも反対の声が広がり、議会は紛糾しました。大統領は「私を信じてください」、「自由貿易の促進以外にも、後発国の労働条件やモラルの向上にも貢献します」と取り繰り返すのみ。元来オバマ大統領の支持母体である市民層中心の民主党が反対に廻り、財界・企業の利益代理である共和党からの支持を得るという「ねじれ」の構図を見れば、TPPの本当の姿が現れるというものです。番組が放送された11日の時点では、明日にでもTPA採決かという切迫した状況でしたが、結局は共和党の協力で26日に採択されました。

番組後半は、このTPA採択の是非をめぐって立場の異なる2人のゲストが意見を戦わします。「TPP修正派」であるヒューマン・ライト・ウォッチ(HRW)のジョン・シフトンは、人権推進という観点からTPP条約について語ります。シフトンの主張は、ベトナム、共和国ブルネイ、マレーシア、シンガポールなど、人権保護が未発達で非民主的な国家が交渉に参加しているので、これらの国の労働者の権利や性的マイノリティの権利を認めさせ、人権状況を改善させるためTPPを活用せよ、というものです。こうした参加国の人権推進を大統領に貿易推進権限を与えるときの条件として、もしもそれが裏切られた場合には最終的に否決すればよいと主張します。それに対し、「TPP反対派」のメイバーダックは、社会に貢献するTPPなどありえないと言い切ります。対立するふたりの主張は、そのまま米国の中の二つの陣営のアプローチの違いを反映しており、なかなか興味深いものがあります。(山根明子)

☆このディベートの後、貿易促進権限法の成立を受けて、米国は一気にTPP大筋合意を図ろうと7月末にハワイで閣僚会合を開きましたが、意気込みに反して各国間の調整はつかず合意は先送りされました。8月末に合意できなければ、このまま漂流の可能性が大きくなります。しかし、安心は禁物。TPPに盛り込まれた大企業の要求は、今後もさまざまな形で推進されるので要注意です。

ゲスト

*ピーター・メイバードゥク(Peter Maybarduk)市民団体パブリックシチズンの医薬品グローバル・アクセス・プログラム( Global Access to Medicines Program)責任者
*ジョン・シフトン(John Sifton)ヒューマンライツウォッチのアドボカシー担当

字幕翻訳:朝日カルチャーセンター横浜 字幕講座チーム:
北村丈子・千野菜保子・仲山さくら・山下仁美・山田奈津美・山根明子
/校正:中野真紀子

Share this
トラックバックURL - http://democracynow.jp/trackback/9326