第29巻 気候vs資本主義

温暖化対策を阻んできた最大の要因は、新自由主義のイデオロギー?地球温暖化への有効な対策は、再生可能エネルギーと分散型経済システムへの大転換ですが、その遂行には政府の断固とした介入が必要です。でもそれは、あらゆる規制の撤廃を唱える市場原理主義にとっては死亡宣告。全力で気候危機を否定する右派の攻勢で対策が遅れましたが、まだ一気に巻き返すチャンスはあります。しかも、それは格差拡大や公共圏の消滅などグローバル経済の諸問題も同時に解決する決定打。

☆発売は2014年11月末になります ☆ 付属の対訳パンフレットは「GMの金のなる木 ブラジルの森林からみるカーボン取引の矛盾」です。(DVDの中にPDF版が入っています パソコンからご利用ください)。

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『ショックドクトリン』の著者ナオミ・クラインが7年目に発表した待望の新著は、気候変動問題をイデオロギーの側面からとらえています。地球温暖化の真偽をめぐる論争は、純粋に科学的な関心に基づくものではありません。米国では、懐疑派は共和党、肯定派は民主党と、支持政党によってきれいに立場が分かれ、本質はきわめて政治的かつ思想的です。

科学者の示す数字に従って炭素排出量を制限するためには、政府が大胆に経済に介入し、規制することが必要です。でもそれは、「政府の介入は悪であり、規制はすべて撤廃せよ」と説く新自由主義の根本教義と、真っ向から対立します。そこで彼らは全力で温暖化の事実を否定します。ケイトー研究所、ヘリテージ財団など名だたる右翼シンクタンクを使って専門科学者の研究に難癖をつけ、温暖化に対する懐疑論をふりまきます。

でも対策をなおざりにした結果、今ではもう「痛みを伴わない転換」など不可能になりました。人類が生き残るためには、現在のシステムを根本的に変える以外にありません。国家が強力に介入して、化石燃料中心の経済から脱却し、分散型の再生可能エネルギーに基づく経済に移行することが必要です。公共部門に思い切って投資して良質な雇用を創出し、医療や教育や学問に投資するのです。また、気候問題と闘うためには、国内の経済格差の是正とばかりでなく、国と国のあいだの南北格差も是正し、グローバル経済を作り変える必要があります。それは同時に、世界を席巻してきた市場原理主義に引導を渡すことです。(2014年9月18日放送)

*ナオミ・クライン(Naomi Klein) 『ブランドなんかいらない』、『ショックドクトリン 惨事便乗型資本主義』の著者。新著はThis Changes Everything: Capitalism vs. the Climate(『これがすべてを変える 資本主義と気候の対決』)


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NASA(米航空宇宙局)ゴダード宇宙研究所の所長を25年務めたジェイムズ・ハンセンは、地球規模の気候変動に関する米国随一の専門家です。1988年、連邦議会で温暖化の危機を警告し、この問題に初めて世界の注意を促しました。その彼が2006年1月、気候変動対策が急務であるとの研究成果の発表をブッシュ政権から妨害されたと新聞社に伝え、世界のメディアに取り上げられました。

石油業界と結託するブッシュ政権は、海洋大気庁やNASAの科学者に圧力をかけました。しかし温暖化についての情報を伏せたがる態度は民主党政権も同じで、アル・ゴアもそれに加担していたとハンセン博士は証言します。両党とも、政府系機関の科学者が研究成果を公表するときは、内容を政府が管理できると考えているのです。政党から任命された科学機関の広報担当者が、科学者による記者発表の内容を事前にチェックし、内容を改ざんすることさえ普通に行われているそうです。(2008年3月21日放送)

*ジェイムズ・ハンセン(Dr. James Hansen) 1970年末から人間の活動が地球の気候に及ぼす影響を研究し、1980年代に米国議会で気候変動について証言した。1995年全米科学アカデミー会員。


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COP15で、先進国に正当な賠償を求める動きの先頭に立つのがボリビアです。モラレス大統領は、先進国は「気候債務」を負っていると批判し、汚染国に環境被害の賠償を求めました。人類の共有財である大気圏を先進国が過剰に消費したため、途上国では干ばつや洪水の被害が増え、国民総生産の大きな部分が消えて行きます。この損害に対する賠償が「気候債務」です。途上国は援助ではなく、先進国が義務を遂行し債務を返済するよう求めているのです。

具体的には2017年までに49%の排出削減が求められます。でも、それで十分なわけではありません。本来は排出量をゼロにして、不法占有している大気空間を返上し、途上国が発展する余地を与えるべきなのです。でもそれができないのなら、排出削減の未達分は、途上国への資金提供や技術移転によって補うべきだ、とボリビアは主張します。(2009年12月9日放送)

*アンヘリカ・ナバロ(Angelica Navarro) ボリビアの気候会議交渉団代表

*ミゲル・ロベラ(Miguel Lovera) パラグアイの気候会議交渉団代表


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地球温暖化への対策が生み出した新手のビジネスに注目しましょう。各国の掲げる削減目標を達成するための決め手とされるのは、京都議定書にもりこまれた「排出量取引」(キャップ・アンド・トレード)制度です。これは国や企業ごとに排出量の上限(キャップ)を定め、その枠を超えて排出してしまった分は、排出枠が余っている国や企業から権利を買い取ります。排出量取引はすでに1500億ドル市場に達していますが、細かい規制の整備はまだこれからです。

こうした中で、CO2を吸収する森林がカーボン・ビジネスの鍵となる商品になりました。世界の温暖化ガス排出の5分の1を占めるとされる伐採を防ぎ、森林を保護すれば、他のところで起きたCO2排出を相殺できるからです。企業は削減目標の未達分を、どこかよその森林の保護によって相殺することができます。つまりアマゾンの熱帯雨林を保護すれば、これまでどおりガスを排出し続ける権利を得られるのです。カーボン取引の実態や森林地帯に住む人びとの生活に与える影響を、ブラジルでの取材をもとに報告します。(2009年11月5日放送)

*マーク・シャピロ(Mark Schapiro) サンフランシスコにある調査報道センターCenter for Investigative Reportingの編集委員


主要環境保護団体のいくつかが、身内から告発されています。コンザベーション・インターナショナル(CI)やTNCやシエラクラブなどの団体は、一般市民の声を代表する市民運動のように思われていますが、その実は営利企業とあまり変わらない運営方式の団体です。元職員の告発によれば、代表は社長とかCEOとか呼ばれ、トップ1%に入るほどの高額所得者です。彼らの仕事の大半は、企業トップや映画スターを自家用ジェットやヨットで世界の美しい自然に案内し、接待によって寄付金を集めることです。献金団体には石油会社などが名を連ねています。

これらの団体が掲げる低すぎる目標設定は、むしろ環境破壊を促進し、破滅への道に向かわせるとハリは言います。異論の多いCO2排出権取引にも、これらの団体は深く関わっています。例えば米国の環境団体ネイチャー・コンサバンシーがボリビアで始めた森林保護プロジェクトは、BPやパシフィコープなどの汚染企業が資金を出したもので、「ボリビアの熱帯雨林伐採を阻止することによって5千万トンのCO2放出を防ぐ」見返りに、別の地域で同量のCO2を排出する権利を手に入れる仕組みですが、実際には伐採地を移動させるだけで地球全体の伐採量を減らすわけではなく、CO2削減を遅らせる効果を持つと言われます。(2010年3月9日放送)

*ヨハン・ハリ(Johann Hari) 英国の新聞『インディペンデント』のコラムニスト。

*クリスティン・マクドナルド(Christine MacDonald) 元コンザベーション・インターナショアル(CI)職員でジャーナリスト。


米カリフォルニア州の名門校スタンフォード大学が、学生主導の運動に賛同して、石炭生産会社への投資を停止すると発表しました。化石燃料生産会社への投資を見直すよう要求する動きは、ここ数年全米の大学で展開されており、多くの学生が、自分たちの教育がたとえ一部とはいえ地球環境を悪化させるエネルギーで賄われている状態に抗議の声を上げています。しかしこれまでの抗議運動は殆どが目標達成に至らず、ハーバード大学では逮捕者も出てしまいました。

アメリカの大学の多くは、寄付金や収益の蓄積を運用して大学経営に当てています。スタンフォード大学の運用額は、世界でも最大規模であり、その総額は187億ドル(約1兆8000億円)にも上ります。今回投資停止の対象となった具体的な金額は公表されていませんが、実際に化石燃料への懸念を理由に投資を撤退した主要大学はスタンフォードが最初であり、注目の的となっています。スタンフォード以外に今回投資を停止した他の11機関は、寄付基金の運用資産が96万~1億2400万ドルと比較的小規模でしたが、これらの大学は石炭に加えて石油・天然ガス会社への投資も停止しました。(2014年5月7日放送)

*マイケル・ペニュエラス(Michael Peñuelas)  スタンフォード大学で「化石燃料要らずのスタンフォード」(Fossil Free Stanford) を主催する学生


   
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