第26巻 ウォール街の暴政

グローバル企業の元締めとして各国の政策決定に強い影響力を行使し、反社会的な政策を推し進めているのが巨大銀行です。2008年のリーマン・ショック以降「大きすぎてつぶせない銀行」という究極の政府保証を得て、「儲けは私物、損失は公有」という悪魔のパターンが完成しました。

☆ 付属の対訳パンフレットは「借金をストライキ! ローリング・ジュービリーとは?」(DVDの中にPDF版が入っています パソコンからご利用ください)。

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2008年9月、金融危機に見舞われたブッシュ政権は、7千億ドルの公的資金を投じるウォール街救済策を発動させました。米国史上最大の政府介入でしたが、その巨額の資金の配分方法や最終的な行先は、なんと今になっても”わかりません”。このナゾを追究したスティール&バーレットの調査報道コンビが、驚くべき実態を報告します。ゴールドマン・サックス出身のポールソン財務長官が、金融市場大暴落を防ぐため手当たりしだい金をつぎ込めと主張し、最大手銀行トップを呼びつけて有無をいわせず一律に救済金を受け取らせたそうです。実際に資金を必要としていた銀行はほんの一握りだったのに。それをうやむやにするため、すべての銀行に救済資金を配たったため、どの銀行の、どの取引が救済されたのか皆目わからないのです。(2009年9月10日放送)

*ジェイムズ・スティール(James Steele)&ドナルド・バーレット(Donald Barlett) バニティフェア誌に寄稿する黄金コンビで多数のジャーナリズム賞を受賞


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2005年ごろから世界の穀物市況が高騰し、貧しい国々では食糧が不足して2008年には各地で飢餓暴動が起こりました。飢餓に苦しむ人々の数は世界で2億5千万人増加し10億人に達したと推測されています。価格高騰の原因をめぐっては、自然災害の多発だとかバイオ燃料ブームのためとか、当時さまざまな説明がなされましたが、決定的だったのは先物市場への巨額の金融投機だったようです。膨大な現金を抱えて運用先をあさっていた投資銀行が、穀物の商品先物市場をマネーゲームで撹乱し、市場メカニズムを壊してしまったとカウフマンは言います。

先物取引の本来の目的は価格の安定です。売り手と買い手が将来のある時点であらかじめ定めた価格で取引をする約束を交わすことで極端な価格変動の影響を緩和できます。でもゴールドマンの開発したインデックス投資は伝統的な市場メカニズムを全く無視するものでした。手持資金を有利に運用することしか考えず人工的に需要を急増させ、小麦価格を急騰させたのです。(2010年7月16日放送)

*フレデリック・カウフマン(Frederick Kaufman) 『ハーパーズ・マガジン』記者。


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下落をみこんでいた住宅ローン担保証券を優良商品として顧客に販売して証券詐欺で訴えられていたゴールドマン・サックスが、わずか5億5千万ドルの罰金を支払うことで証券取引委員会(SEC)と和解しました。大手銀行の不正行為が発覚するたび、銀行は悪事で得た利益よりずっと少ない罰金を払っただけで、刑事責任は問われず、誰ひとり投獄されません。なかでもゴールドマンは、この20年くり返し投機バブルを作り出し、ITバブルでも、住宅ローンバブルでも常に投機の中心にいたのに、いつも刑事責任を免れています。彼らには、他の銀行には見られない政府との強いつながりがあるからです。クリントン政権で財務長官に就任した元GS副会長ロバート・ルービンが金融規制緩和を進め、その後は彼の仲間や部下たちが常に政権の要職についています。ブッシュ政権末期のポールソン財務長官。オバマ政権では、ガイトナー財務長官、財務省ナンバー・ツーのパターソン氏、商品先物取引委員会のゲンスラー委員長など枚挙にいとまがありません。(2010年7月16日放送)

*マット・タイビ(Matt Taibbi) ローリングストーン誌の政治記者。


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2010年末に米国連邦準備銀行(FRB)が6千億ドルの資金供給と史上最低金利の据え置きという「量的緩和」に踏み切ったことから、世界では新たな通貨切り下げ競争に火が付きました。共和党が多数を占める連邦議会では財政支出による景気対策が打てないため、代わりに連銀が動いて金融業界を救済したのです。「銀行に資金を回せば貸出しが増え、不動産市況が回復し、銀行の含み損が減る」という理屈でしたが、ジャンク債や詐欺ローンにまみれた住宅市場をひきずったままではどんなにドル供給を拡大しても国内経済に資金は流れず、増刷したドルはもっと条件のよい海外の新興経済に流れます。これが世界中の経済に大混乱を招き、為替レートの引き下げ競争を引き起こしています。(2010年11月5日放送)

*マイケル・ハドソン(Michael Hudson) 長期経済トレンド研究所の所長、カンサスシティのミズーリ大学教授。著書は『超帝国主義国家アメリカの内幕』など


タックスヘイブンはグローバル化の流れとともに1970年代から急速に拡大し、今や世界経済を動かす心臓部になっています。何十兆ドルという資金がオフショアにおかれ、世界貿易の大半がここを経由します。カリブの小さな島にへそくりを隠すなんてイメージがありますが、実態ははるかに複雑なネットワークであり、英国の金融の中枢ロンドンのシティそのものが世界最大のタックスヘイブンです。 有名なタックスヘイブンはみな旧英国植民地です。ケイマン諸島やバミューダ諸島、ジブラルタルなどは海外領土、英国近隣のジャージー島、ガーンジー島、マン島などは王室属領で、いずれも英国の支配下にありながら自治権を持つ「内」でも「外」でもないオフショア領域です。こうした世界中の飛び地が怪しい資金の受け皿になり、最終的にはロンドンのシティに還流されます。第二次大戦後に植民地が次々独立して大英帝国は解体しましたが、実はこっそり再編されて、それに代わる秘密のオフショア金融帝国が誕生していました。これがポスト植民地時代の英国が金融立国で栄えた理由です。

米国は1920年代の金融恐慌への反省から70年代までは厳重な規制が敷かれていました。ところがウォール街はそれを避けようと大挙してシティに資金を移動させ、旧英国領のオフショアネットワークを利用して目ざましい急成長を遂げたのです。米国内では許されない高リスクの金融事業を展開し、とてつもない利益を上げたことが、現在の「大きすぎて潰せない銀行」につながります。(2011年4月15日放送)

*ニコラス・シャクソン(Nicholas Shaxson)英国のジャーナリスト。『タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』の著者


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共和党の大統領候補ミット・ロムニーは、ウォール街の熱烈な支持を受けた大富豪です。彼の財産がいかに築かれたかを見れば、米国の資本主義の体質がよく見えます。ロムニーが作ったベインキャピタル社は、企業を標的にするいわゆる「ハゲタカ」ファンドです。彼が得意とするレバレッジドバイアウト(LBO)という企業買収の手法は、業績不振の企業に狙いをつけ、その企業の資産やキャッシュフローを担保に買収資金を調達し、首尾よく経営権を握った暁には資産売却やリストラなどで企業の富を絞り出し、資金提供者に分配するものです。「企業再生ファンド」なんて言いながら、実際は弱った企業を食い物にして資産を絞り取る乗っ取りです。

LBOが盛んになった1980年代には、米国経済全体が産業資主義から金融資本へと大きくシフトしました。従来のような製造業中心の経済で製品輸出で稼ぐのではなく、金融取引に資本が集中し金融商品で稼ぐ経済になってきました。企業そのものを利殖の対象とするLBOも、金融資本が産業資本を食い物にする一例です。富裕層は「経済の金融化」を歓迎します。産業資本モデルでは生産に従事する労働者にもそれなりに富の分配があり、経済全体にお金がまわりますが、金融資本モデルは雇用を生まず、すべての利益を「1%」の富裕層が独占するから効率がよいのです。労働者が要らないので、学校や病院などに税金を使うことには大反対です。こんな反社会的とさえ言える金融資本の利益代表がスーパーPACのおかげで前代未聞の選挙資金を集め、オバマと競り合っているのです。(2012年7月30日放送)

*マット・タイビ(Matt Taibbi) ローリング・ストーン誌の政治記者


ウォール街占拠運動に当初からかかわった文化人類学者デイビッド・グレーバーは、貧困層は債務を通じて富裕層に無限に縛りつけられてきたと語りました。「ローリング・ジュビリー」はウォール街占拠運動から派生した、債務に対する新しい形の抵抗運動です。寄付などを通じて資金を集め、それをもとに債券市場に介入し、ハゲタカファンドによる強引な債務の取り立てをけん制します。ハゲタカファンドは、銀行側が回収不能と判断して捨て値で売却するディストレスト債を買い集め、強引な手口で債務者に返済を迫るからです。資本主義に対する倫理的な批判と具体的な抵抗手段をつきつける興味深い運動です。(2012年11月15日放送)

*パメラ・ブラウン(Pamela Brown) ニュースクール大学社会学部博士過程。

   
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