2011年第1巻(通巻19) 巨大市場インド

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 世界最大の民主主義国インドで今何が起きているのか? 巨大市場の成長に惹かれる世界の産業界の熱い視線には映らない、先住民の土地を奪い何百万の農民を犠牲にして強引に進められる経済開発の闇。インドの現状を通じてグローバル化の時代の「民主主義」の変容が浮かび上がります。

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 インド政府は、国内のテロリスト過激派を掃討すると称して中央部から西部にかけての森林地帯に軍隊を派遣しています。「共産党マオ派の武装勢力」が潜むとされる森林地帯は、インドで最も貧しい先住民が住む地域です。マオ派から隔離するため、彼らは政府の建てたキャンプに強制収容されます。収容所に行かない者は、マオ派とみなされ、だから殺してもよいことになります。いよいよ「貧困層がテロリストと一緒くたにされる」時代がきました。しかも掃討作戦の尖兵となる民兵部隊は、収容所に入れられた先住民を訓練したものです。インド政府がここまで強引に先住民を立ち退かせる理由は、経済開発にかかわっています。
 インドはまた、建国以来カシミール地方の軍事占領を続けています。長期にわたる過酷な占領統治はが「パレスチナと違うのは、まだ住民を爆撃していないことぐらいだ」とロイは言います。殺人や失踪や拷問やレイプが横行し、開発や紛争の影で何百万もの人々が犠牲になっています。それにもかかわらずインドは好調な民主主義国として国際社会にもてはやされます。膨大な中産階級をかかえるインド市場の魅力が、忌まわしい暗部をかきけしてしまうのです。
 何百万もの弱者を犠牲にして強権的に進められる経済開発。それを知りながら喜んで手を結ぶ欧米の民主主義諸国。グローバル化の中で民主主義そのものが変容しているのだとロイは言います。(2009年9月28日放送)

*アルンダティ・ロイ(Arundhati Roy) インドの作家、グローバル・ジャスティスを求める活動家。デビュー作の『小さきものたちの神』で1997年のブッカー賞を受賞。番組が放送された9月28日に新作Field Notes on Democracy: Listening to Grasshoppers(『民主主義のフィールドノート イナゴの襲来に耳をすまして』)が発売された。


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 2009年7月クリントン国務長官がインドを訪問し、米国の兵器と核技術を販売するための政府間合意を交わしました。戦闘機120機以上を納入する高額取引に加え、米国製の原子炉の輸出も予定されています。インドのエネルギー需要を満たし米印両国の雇用を拡大するとうたわれていますが、米印が核協力を強化すれば、パキスタンとインドの軍拡競争を刺激しかねません。また原子力発電技術の提供は、インドがイランから天然ガスを調達する構想に水をさします。イランからパキスタンを経由してインドに達するパイプラインを敷く構想は、3国すべてを潤す「平和のパイプライン」と呼ばれていますが、イランを孤立させたい米国の牽制によって、インドは脱落しそうな気配です。(2009年7月24日放送)

*アルジュン・マキジャーニ(Arjun Makhijani) エネルギー環境調査研究所の所長で、著書Carbon-Free and Nuclear-Free: A Roadmap for US Energy Policyで炭素や原子力に頼らないエネルギー源の確保のための道のりを説いた。
*シッダールタ・バラダラジャン(Siddharth Varadarajan) インドの大手英字新聞「ヒンドゥ」の戦略問題担当の主筆。


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 2010年11月、今度はオバマ大統領が3日間のインド訪問です。目的は「セールス」。中間選挙で民主党が歴史的な大敗を喫し二期目をあやぶむ声も聞こえるなか、経済成長著しいインドに米国の製品を売りつけ、国内の雇用を創出することで挽回を図ったようです。オバマ訪印にあわせて、ゼネラル・エレクトリックやボーイングなど米国企業の幹部たちも250人ほどインドにつめかけ、国ぐるみの熱い期待を印象づけました。「民主主義国」の米印が連携し、もうひとつの新興大国中国を牽制する、そんな計算もあって、オバマは「共通の利害と価値観」を強調し、最大限の愛想をふりまきました。
 でもインドでオバマを迎えたのは歓迎の声ばかりではありませんでした。左派政党や、1984年にボパールで米国企業が起こした大事故の犠牲者、米国の農業助成が一因で破産に追い込まれ自殺した綿農家の遺族らが、抗議の声をあげました。インドの成長を支えると言いながら、オバマの眼中にあるのは米国経済の回復、特に大規模なアグリ企業や軍事産業、エネルギー産業の利益の増進ばかりです。それはインドの小農や庶民をしめつけ、インドと周辺地域の緊張を高めることになる。長い目でみて米印両国にとって有害な動きが開かれていこうとしているのではないのかと、南アジア史家ビジェイ・プラシャドは問いかけます。(2010年11月8日放送)

*ビジェイ・プラシャド(Vijay Prashad) トリニティ・カレッジの南アジア史教授。The Darker Nations: A People's History of the Third World (『第三世界の民衆史』)ほか、著書多数。
*サチナス・サランギ(Satinath Sarangi) ユニオン・カーバイド社がボパールで起こした有毒ガスもれ事故の被害者の救済の活動をしている。


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 人権活動家の医師ビナヤク・センはインドで最も有名な政治囚です。違法とされた毛沢東主義者(マオ派)グループを支援したとして、中央インドのチャティスガル州の裁判所で扇動罪および共謀罪で有罪とされました。裁判所は埃をかぶっていた植民地時代の「扇動法」を持ち出して、終身刑を言い渡しました。セン医師の保釈請求と刑の執行の一時停止を求める裁判が起こされ、支持者たちは有罪判決に反対する世界同日行動を計画しています。デモクラシー・ナウ!のアンジャリ・カマトが現地に飛び、セン医師を狙い撃ちにした不当捜査と有罪判決の裏にあるものを報告します。(2011年1月28日放送)

*ビナヤク・セン(Binayak Sen) インドの医師、人権活動家。
*イリーナ・セン(Ilina Sen) ビナヤクの妻。


 アースデーを記念する特別番組です。バンダナ・シバとモード・バーロウという2人の著名な環境保護活動家をゲストに招き、政治・経済のグローバル化とからんで深刻化する温暖化と気候変動の問題を語ります。まずはインド出身のシバに、「日本の原発事故はインドにどんな影響を?」という質問が振られます。
 インドでもカナダでも、経済開発・エネルギー開発と称して、環境や人々の生存に大きなリスクをもたらすプロジェクトが進行中です。巨大資本と国家が絡み、軍の出動や暴力の行使を伴うことも多い環境破壊ですが、2人が希望のよりどころとするのは、ボリビアなどが推進する「母なる大地の権利」を求める動きです。
 ボリビアでは人間と同じ権利を自然に与える法が成立目前で、国連総会でも、自然に対しても人間と同等の権利を与える国際基準についての論議が行われました。「自然と人間とは別々の存在だとする見方は、知性のありようとして時代遅れ」「大半の文明は 世界を関係や結びつきで見てきた」「母なる大地の権利という考え方は、人と自然が繋がっているという感覚を蘇らせてくれる」とシバは、語ります。自然の商品化という考え方が地球温暖化対策の中でさえまかり通る危機的ななりゆきではあるけれど、大丈夫。地球全体から見れば、自然を尊重し恵みに感謝して共に生きる、「母なる大地」という考えを信じる文化の方が絶対に多数派なのだからと。(2011年4月22日放送)

*モード・バーロウ(Maude Barlow) カナダ最大のアドボカシー団体「カナダ人評議会」の議長で、「ブループラネット・プロジェクト」の創設者。『BLUE GOLD―独占される水資源』や『"水"戦争の世紀』など著書多数。もうひとつのノーベル賞として知られるスウェーデンのライト・ライブリフッド賞も受賞。
*バンダナ・シバ(Vandana Shiva) インドの環境活動家、思想家、物理学者。「科学・技術・環境科学のための研究基金」理事。種子の多様性保存を訴えるナブダニャ(9つの種子)運動を創始した。1993年ライト・ライブリフッド賞。『アース・デモクラシー ―地球と生命の多様性に根ざした民主主義』など著書多数。


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 世界最大の民主主義国インドで今何が起きているのか? 巨大市場の成長に惹かれる世界の産業界の熱い視線には映らない、先住民の土地を奪い何百万の農民を犠牲にして強引に進められる経済開発の闇。インドの現状を通じてグローバル化の時代の「民主主義」の変容が浮かび上がります。

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