トムズリバー 公害訴訟で多額の和解金を勝ち取った町

2014/4/23(Wed)
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大手化学工場の廃棄物に汚染された水や大気が原因で小児がんになったとして、ニュージャージー州の住民がチバ・スペシャルティ・ケミカル社とユニオンカーバイド社など三社を訴えた事件が1980年代にありました。2002年に和解が成立し、公害訴訟 としては最大規模の和解金が支払われたとされています。和解はしましたが、企業側は最後まで賠償責任を認めませんでした。

ニュージャージー州の海浜地区ドーバー・タウンシップで行われた調査によると、1979年から1995年の間に90人の子供が小児がんと診断され、人口8万人規模の地域で通常発生する数より23人多かったことが分かりました。原告たちは、産業廃棄物が河川や地下水を汚染し、水道や井戸を通して人体に影響を与えたことが原因だと主張しましたが、小児がんの増加に影響を与えた単一のリスク要因は確認できない というのが行政調査の結論でした。

原告の中心となったのがリンダ・ギリックです。息子のマイケルが1979年、生後三か月で神経芽細胞種と診断されました。一歳まで命がもたないと宣告されたマイケルでしたが、2014年現在もがんと共に生きています。トムズリバーでの小児がんが多いことに最初に気づいたのはリンダでした。トムズリバーから遠く離れた大都市の病院で、地元の患者家族とよく遭遇したからです。リンダは患者の分布図を作り、トムズリバーでの発生数が他の地域よりも多いことを州の保健局に訴えます。知人の協力を得て、州保健局、環境保護庁(EPA)が動きはじめました。

環境汚染という点では放射能汚染も同様です。2014年4月には、米軍兵士約100名が東日本大震災時の救援活動中に被曝し、重大な健康被害が出たとして東京電力を訴えています。法務省のHPによれば、福島原発事故の被害を受けたとして2013年以降、日本でも国家賠償訴訟が相次いでいます。しかし国は,規制権限の不行使等の違法性は認められないと主張し、原告らの国に対する請求を棄却するよう求めています 。(桜井まり子)

*ダン・フェイガン(Dan Fagin):ニューヨーク大学准教授でベテラン環境ジャーナリスト。Toms River: A Story of Science and Salvation (『トムズ・リバー:科学と救済の物語』)で2014年度のピュリッツァー賞を受賞した。

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字幕翻訳:川上奈緒子 / 校正:桜井まり子