ウィスコンシン州リコール選挙 ウォーカー知事再選のカラクリ
共和党の現職スコット・ウォーカー知事は2012年6月のウィスコンシン州リコール選挙を勝ちぬきました。今回のリコール選挙は、公務員労働組合の団体交渉権を制限する知事の政策に反発して発生したものでしたが、2つの点から全米の注目が集まりました。1つはもちろん、労働運動の今後を占う上で重要な選挙だったこと。もう1つは、選挙への企業の寄付の規制を取り払ったシチズンズ・ユナイテッド判決後初の大型選挙だったため、11月に大統領選を控えるアメリカにとって、この判決の影響を測るものとして注目されたのです。
今回のリコール選挙はウィスコンシン州史上最も高額な選挙となりました。しかし資金集めの面では明らかに不均衡があったといいます。まずリコール対象となった知事側は、州法の抜け穴を利用して無制限の寄付集めが可能だった一方、対立候補の民主党ミルウォーキー市長トム・バレット陣営は、個人の寄付は最大1万ドルまでと上限がもうけられていました。結果、知事側に3010万ドルが集まったのに対し、バレット陣営は390万ドルと大きく水をあけられました。両陣営とは独立した組織、いわゆるスーパーPACが使った資金は6350万ドルに上りましたが、内4500万ドルが知事サポートの広告に費やされたとされ、その点でも保守派の圧勝でした。
『フォーブス』誌によれば知事側に寄付した億万長者は14人、ウォールマート創業者ウォルトン家の一員も含め13人が州外在住者でした。そして特に保守派の億万長者で、アメリカの非公開企業としては第2の規模を誇るコーク・インダストリーズの共同オーナー、チャールズとデヴィッド・コーク兄弟の貢献度は大きかったと言われています。(兄弟とウォーカー知事の密接な関係は2011年2月、「デヴィッド・コーク」を名乗り知事に電話したジャーナリストが、会話の録音を公開したことで暴露されています)コーク兄弟はティーパーティー系の組織も含め、保守派政策を資金面でバックアップすることで強力に推し進めており、今回の成功に味をしめて秋の選挙にも積極的に関わってくるだろう、とニコルズ記者は予想します。
ウィスコンシンでのカネの力対市民の力の戦いは、前者の勝利に終わりました。現在、大統領選でも共和党のロムニー候補が、資金集めではオバマ大統領を上回っています。それに対しオバマ陣営は、草の根の選挙運動を積極的に繰り広げていくとしています。今秋の資金力対市民力の第2ラウンドでどちらが勝利するのか注目したいところです。(Natsu)
*ジョン・ニコルズ(John Nichols):ネイション誌政治記者。Uprising: How Wisconsin Renewed the Politics of Protest, from Madison to Wall Street (『蜂起 ウィスコンシンが新たに甦らせた抗議のポリティクス:マディソンからウォール街まで』)著者。
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