1.ロボット革命と21世紀の戦争 (22分)
米国は2008年夏からプレデターと呼ばれる無人機を使ってパキスタン領内のアルカイダ拠点とされるものを攻撃しています。米軍の戦闘における無人兵器の使用は、イラク開戦いらい急速に増加し、何千もの無人機が中央アジアだけでなく、ソマリアやメキシコ国境の警備にも使われ、地上戦用のロボットも使われています。こども兵や傭兵企業についての著作で現代の戦争の様相を論じてきたP・W・シンガーは、ロボットによる戦争が与える影響について様々な問いを投げかけます。
ロボット兵器が引き受ける「3D」の仕事とはdull(単調)dirty(汚い)dangerous(危険)です。何十時間も続けて砂漠を監視したり、汚染環境下で活動し有毒物質や爆弾の処理を行なったりすることができます。戦場においては、むしろ生身の人間が弱点になります。では米兵が危険な任務を負わなくなれば、戦争は紳士的になるのでしょうか?ロボットが戦争犯罪を犯したら誰が責任を問われるのでえしょう?機械が戦う戦争に終わりはあるのでしょうか?そして人間が戦闘員でなくなったとき、民主主義には、どんな影響があるのでしょうか?(2009年2月6日放送)
*P・W・シンガー (P.W. Singer) ブルッキングス研究所の上級研究員。『戦争請負会社』、『こども兵の戦争』などの著者。
2.NY州の無人機基地に抗議する市民(14分)
ニューヨーク州シラキューズ市で風変わりな裁判が開かれました。ふだんは酔っ払い運転や万引きなどが裁かれる法廷で、裁判官の前に立ったのは「ハンコックの無人機に反対する38人」。同市のハンコックフィールド米空軍州兵基地からアフガニスタンに無人機が出撃していることに抗議して基地の入り口前で寝転び死体を演じた抗議運動のメンバーでした。
ハンコックフィールド基地は2009年からアフガニスタン戦争の無人機出撃基地として使われています。「市民たるものは、犯罪が行われているのを目撃した際には行動を起こす義務があるのだと、抗議者たちは述べます。(2011年11月4日放送)
*アン・ライト(Ann Wright)38人の被告の一人。29年間米軍に勤務し大佐で退役。国務省の高官も務めたが、2003年にイラク戦争に抗議して国務省を辞任。
*エド・キナン(Ed Kinane)38人の被告の一人。シラキューズ平和評議会会員。
3.『汚い戦争』―世界中が戦場だ (36分)
10周年を迎えたサンダンス映画祭ドキュメンタリー部門で初上映された映画『汚い戦争:世界は戦場だ』は、中央アジアから北アフリカで拡大を続ける米国の秘密戦争をあばく衝撃の記録映画です。ドキュメンタリーを共同制作した2人はオバマが推進する秘密戦争を追って、アフガニスタン、イエメン、ソマリアを訪れました。
2期目を迎えたオバマ大統領は、長期にわたる戦争を終結させると宣言しましたが、実際には国家機密特権や無人機爆撃を強化し、ブッシュ政権以上に戦争を拡大しています。オバマの戦争理念を象徴するのが、ジョン・ブレナンのCIA長官任命です。ジョン・ブレナンは、ブッシュ時代に無人機爆撃を考案し「暗殺の帝王」と呼ばれる人物です。ホワイトハウスでは毎週火曜日に高官たちが集まって、誰を無人機攻撃の標的にするかを決める「暗殺会議」が開かれているそうです。こうして選ばれる容疑者の「暗殺者リスト」は、オバマ政権になって急拡大しました。
大統領の一存で、交戦中でもない国において暗殺が行われることには大いに疑問がありますが、それに加えて民間人の犠牲の問題があります。無人機攻撃では無関係の民間人が巻き込まれる確立が高いのです。スケイヒルたちは無人機の誤爆によって多数の民間人犠牲者が出たアフガニスタンの村を調査するうちに、通常の米軍にもNATO軍にも所属しない特殊精鋭部隊の活動に気づきます。犠牲者の家族のもとに密かに謝罪に訪れた米軍指揮官ウィリアム・マクレイブンは、統合特殊作戦コマンド(JSOC)の司令官だったのです。
JSOCはその後、オサマ・ビンラディンの捕獲・殺害作戦で一躍、有名になりました。しかしビンラディン捕獲にまつわる顛末はマニアックなまでに詳細に報道されましたが、JSOCが行っているそれ以外の活動に関しては、米国のメディアはいっさい報じていないとスケイヒルは言います。この映画はオバマが世界中繰り広げる秘密戦争を暴きます。(2013年1月22日放送)
*ジェレミー・スケイヒル(Jeremy Scahill) デモクラシー・ナウ!特派員で『ブラックウォーター 世界最強の傭兵軍の勃興』の著者。プロデュースしたドキュメンタリー映画『汚い戦争:世界は戦場だ』でサンダンス映画祭撮影賞を受賞。その後、映画はアカデミー賞ドキュメンタリー部門にノミネートされた。2014年初めに、グレン・グリーンウォフドらと共に新メディア「ファーストルックメディア」(FLM)を創始した。
*リチャード・ローリー(Richard Rowley)ビッグ・ノイズ・フィルムズ(Big Noise Films)の独立ジャーナリスト。『汚い戦争:世界は戦場だ』の監督。
4.世界を戦場にしてよい理由 (10分)
2013年、国防総省の高官は上院の公聴会で「軍が敵とみなす者がいるところが戦場」であり、アルカイダとその関連組織との戦いは「最短でも10~20年かかる」と証言しました。根拠にされた法律が、9.11事件を受けて2001年に議会が可決した「テロ組織に対する武力行使の承認」(AUMF) という合同決議です。高官に食いついたのがメイン州の独立派議員アンガス・キングでした。
キング議員の主張は明快そのもの。AUMFは、9.11事件を起こした者とそれに関与した者に限定した決議であり、これを「アルカイダとその関連組織」と読み替え、2001年9月11日以降にも適用するのは拡大解釈もはなはだしい。また戦争を開始する権限は合衆国憲法で議会に属しており、大統領にその権限があるとするのは、戦争権限を議会と大統領に分権させた憲法に反するという主張です。
しかし国防総省の高官はイエメンに無人機爆撃を行うことは正当であり、「ボストンからパキスタン部族地域まで」世界中を戦闘地域にできると証言しました。ジェレミー・スケイヒルは、この考えはすでに軍隊のドクトリンの1つであり、対外政策について行政府に独裁的な権限をもたせたことがオバマ政権の遺産になると述べました。(2013年5月13日放送)
*アンガス・キング(Angus King, Jr.)メイン州選出の独立系上院議員。1995年から2003年までメイン州の州知事を務めた。
*ジェレミー・スケイヒル(Jeremy Scahill) 前出
5.メタデータによる処刑 NSAの暗殺関与 (32分)
ガーディアン誌を去ったグリーンウォルド記者が、DN出身のジェレミー・スケイヒルらと立ち上げた新メディア事業ファースト・ルック・メディアのデジタル・マガジン「ジ・インターセプト」。お披露目の記事は2人の共著で、国家安全保障局(NSA)の諜報活動に関する新たな発見です。
エドワード・スノーデンの告発以来、NSAが世界中で行っている通信傍受については次々と新事実が明かされていますが、今回のスクープはそうした監視活動の枠を超えた、実戦におけるNSAの関与です。CIAやJSOCが交戦中でもない国で行っている無人機を使った容疑者の暗殺に、NSAが直接に関与しているのです。携帯電話やSIMカードを追跡するバーチャル基地局の技術を開発し、それを使って攻撃対象の位置を特定するのです。しかし標的となる携帯電話の持ち主が何者であるかは確認しません。メタデータの分析のみに頼り、人間の手による情報の参照を省いた攻撃は、何の関係もない人々を殺してしまうのは必定です。
今回、無人機による暗殺の犯罪性を告発したのは、JSOCの無人機レーダー操作手として世界各地の暗殺作戦に参加したブランドン・ブライアントです。以前にもデモクラシー・ナウ!にも出演しており、アフガニスタンで無実の人々を殺したときの模様などを証言しています。米国内の基地からスクリーン上で殺害の場間面を目撃しただけでしたが、後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こしました。合衆国憲法を踏みにじるような暗殺に加担したことに罪悪感を感じたと、ビデオの後半の20分ぐらいのところで語っています。こうした証言が、「市民の犠牲は極力さけている」というオバマ大統領の言葉が真っ赤な嘘であることを明らかにするのです。
スノーデンが体をはって告発したことは、諜報機関で働く人々に刺激を与え、秘密を語り始める人が増えているとスケイヒルは言います。こうした内部告発の安全な受け皿となることが新メディアFLMの目的の一つだそうです。それによって、政府の発表を無批判に垂れ流す大手メディアの解毒剤になりたいとグリーンウォルドは言います。今後のFLMの動きにはますます目が離せません。(2014年2月10日放送)
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*ジェレミー・スケイヒル(Jeremy Scahill) 前出
*グレン・グリーンウォルド(Glenn Greenwald) スケイヒルらと共同創始した新メディアFLMでデジタル雑誌インターセプトを立ち上げた。元ガーディアン紙コラムニストで、エドワード・スノーデンによるNSA関連の内部告発を報道
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