第25 巻 国民国家の黄昏

グローバル企業が牙をむき出し主権者である国民への攻撃をあらわにし始めました。雇用を破壊し、租税を負担せず、法律や司法を私物化し国の資産を食い物にする、まさに社会の敵。国を担う中流層は没落し、反乱に備えて市民の監視が進んでいます。近代国家の抜け殻をかぶった何か別のものが育っているのかも

☆付属の対訳パンフレットは「TPPは貿易協定の衣を着た企業による世界支配の道具」(DVDの中にPDF版が入っています パソコンからご利用ください)。

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オバマは選挙中にNAFTA見直しを約束していましたが、就任後は世界的経済危機を理由に実行を先送りしています。2009年8月にメキシコを訪れたオバマ大統領は、メキシコのカルデロン大統領とカナダのハーパー首相とのあいだで初の北米自由貿易協定(NAFTA)首脳会談を行ない、移民法改革、貿易、メキシコの麻薬戦争、ホンジュラス危機、新型インフルエンザ等について協議しました。一握りの企業と政治指導者が密室で物事を決める体質は変わらず、労働団体や人権団体から批判されています。米国の労働者は貿易協定に労働基準を盛り込むことを要求しています。企業は違反に罰則がないメキシコに流出して、労働条件を悪化させました。メキシコの農家は米国からの安価な輸入品に太刀打ちできず、200万人もが土地を離れて移民労働者となりました。メキシコの民衆は、基本的な食糧の供給を貿易協定から除外するよう求めています。このようなNAFTAのあり方が、豚インフルエンザの発生と流行につながったとの指摘もあります。(2009年8月11日放送)

*マヌエル・ペレス・ロチャ(Manuel Perez Rocha) 政策研究所の研究員
*ローラ・カールセン(Laura Carlsen) メキシコシティの国際政策センター米州政策プログラム理事。


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相次ぐ労働運動に対する攻撃に対抗して行われたウィスコンシン州のデモで、マイケル・ムーア監督が応援演説をしました。米国は破産などしていない、人口の半分を合計した以上の富が、まともに税金も払わない四百人の「ムバラク」の手中にある米国の社会構造そのものが問題だと明解に指摘し、「まともな仕事⇒まともな給与⇒生活のための消費⇒雇用」という実経済の循環を再建すること、「若い世代のための教育⇒新しい発想⇒起業・雇用促進⇒税収増」という財政の基本を取り戻すことこそが求められている、と力強く呼びかけます。(2011年3月7日放送)

*マイケル・ムーア (Michael Moore)映画監督・作家。多国籍企業の利害に振り回される米国の政治と経済の病理を一貫して追及。


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2011年3月ロンドンで50万人を超えるデモ行進が行われ、戦後最大となる公共支出の削減に抗議しました。英国では2010年5月に13年ぶりの政権交代で保守党と自由民主党の連立政権が成立しましたが、新政権は財政赤字解消を最優先課題とし医療も教育も社会福祉もあらゆる公共サービスを縮小し、30万に及ぶ公共部門の雇用をカットするという大胆な緊縮策を打ち出しました。このような計画を進める一方で、法人税の減税試算が示されたことがデモの引き金となりました。問題は緊縮財政だけではなく、負担の不公平と極端な富の集中です。中流階級から下の人々には社会福祉の削減と増税が重くのしかかりますが、企業や投資家は税負担を軽減されるのです。大金持ちは税金を払っておらず、金融危機を引き起こして財政危機の原因を作った人々がますます富を溜め込む仕組みになっています。
ここで注目される動きが、アンカット運動です。巨額の収益を上げながら税金逃れをしている企業を名指しで糾弾します。例えばボーダフォンは、ドイツの移動通信企業マンネスマンを買収したときに支払うべきだったとして英国政府から60億ポンドの追徴課税を受けていましたが、大企業を優遇する保守党が政権についたとたんに追徴取り消しになりました。これによって失われた税収が、結局は公共サービス削減のかたちで庶民に降りかかってきます。そこでボーダフォンの本店で座り込みをして税金の支払いを要求する人々が現れると、この運動は人々の大きな共感を呼び、またたくまに英国各地に広がり56都市でボーダフォンの店が占拠されました。アンカット運動は米国にも飛び火し、ベライゾンやバンク・オブ・アメリカなどに抗議行動が行われています。(2011年3月28日放送)

*ヨハン・ハリ(Johann Hari) 英国インディペンデント紙のコラムニスト
*アリソン・キルケニー(Allison Kilkenny) ニューヨークのシティズン・ラジオ共同司会者。『ネイション』誌のブログで米国のアンカット運動(US Uncut) について報告


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財政危機を利用して、町をまるごと民営化?そんな可能性もはらむミシガン州の新しい非常事態法に反対し、住民が訴訟をおこしました。「財政の戒厳令」と呼ぶ人もいるこの新法では、財政難の市町村に、知事が非常事態管理者(emergency manager)と呼ばれる職員あるいは企業を任命し、管理に当たらせます。非常事態管理者は、公共財の売却や、労使契約の破棄、行政の民営化を行えますし、公選された人を解雇できます。民意を問う必要はなく、説明責任も負いません。
こんな非常事態管理者任命の狙い撃ちに会うのは、低所得者や非白人のコミュニティです。しかも、非常事態管理の職務を担うのは、企業もありうるとされています。となると、この制度の究極の狙いは、民営化による企業のボロ儲け?市町村のまるごと民営化も可能なのですから。(2011年6月23日放送)

*ジョン・ファイロ(John Philo)モーリス&ジェイン・シュガー経済社会正義法律センターの法務主任
*エディス・リー=ペイン(Edith Lee-Payne) 非常事態法をめぐりミシガン州を提訴したデトロイト市民


米国の司法には2層構造が生じています。「法の下の平等」はここ40年ほどで形骸化し、政財界の人々は法をやぶっても訴追されることがありません。一般国民の人権は守られず、国民の監視に税金をつぎ込む政府に危険視されれば司法手続きも踏まずに拉致監禁され、いまや堂々とCIAに暗殺されることさえあります。法律はもはや機会均等を保障せず、むしろ不平等を正当化して政財界の有力者の特権を守り不正な利得を隠す武器になっているのです。
ブッシュ政権が行った令状なしの米国市民の通話の盗聴は協力した通信業界も共犯でしたが、議会の介入で彼らは免責されました。これを一段掘り下げると、ブッシュ政権の下で大胆に進められた諜報機関の民営化の問題に突き当たります。これを推進した国家情報長官マイク・マコーネルは世界最大の軍事諜報請負企業ブーズ・アレンの人間で、政府諜報機関の仕事をどんどん自分の会社に引き渡したのです。同じ人間が政府役職と民間請負企業のあいだを行き来する米国の「回転ドア」が国の制度を蝕んでいる代表的な例でしょう。(2011年10月26日放送)

グレン・グリーンウォールド(Glenn Greenwald)政治、司法関連ブロガー


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1991年に発表されたベストセラー『アメリカの没落』(邦訳あり)は、当時のアメリカの繁栄の陰でひっそり始まっていた異変、産業の空洞化と中流層の没落に警鐘を鳴らした名著です。いまから思えば、米国の中流層の没落は過去数十年の政策によって着実に進行してきたのです。飛びぬけた富裕層とグローバル企業だけが独り勝ちし、国内企業は没落、国民の生活は破たんし、教育や文化のような社会資産もぼろぼろに食い荒らされています。国の繁栄の柱である中流層に絶え間なく攻撃を加える異常な政策が続いてきたのです。
DVD限定版として、2012年の共和党大統領候補ミット・ロムニーが象徴するプライベート・エクイティ・ファンドが、国内産業の空洞化と雇用の消滅を推進する一方、オフショア資産の運用による税金逃れの道を提供することで、いかに国民国家の衰退に手を貸してきたかという話題も付け加えます。(2012年7月30日放送)

*ジェイムズ・スティール(James Steele)&ドナルド・バーレット(Donald Barlett)バニティフェア誌に寄稿する黄金コンビで多数のジャーナリズム賞を受賞


TPP(環太平洋パートナーシップ)は米国でも一般には知られておらず、通商代表部が企業側と連携しながら進めているので国会議員でさえ内容を知ることができません。交渉草案がリークされて、ようやく議論に上るようになりました。2011年3月の「知財関連の条項」(2月時点での米国の要求)リークに続き、2012年6月には「投資条項」の草案がリークされました。リーク文書を掲載したロリ・ウォラック氏は、「これは貿易協定ではない、企業による世界支配の道具です」「1%の富裕層が私たちの生存権を破壊する道具です」と断罪します。米国側でも外国企業による国庫の収奪とか国内法規制の無力化への懸念が指摘されていることは注目すべきです。日本のTPP論議では、とかく「国益を守る」という言葉が国と国の間の貿易競争で有利な位置に立つという意味に変換されがちですが、産業界の利益と国民の利益は必ずしも同じではありません。あくまで国民の利益を守るという意味の国益の追求を論じて欲しいものです。(2012年6月14日放送)

*ロリ・ウォラック(Lori Wallach) 市民団体パブリック・シチズン

   
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